13)through : 終わって, 通して
 
 夢は叶うばかりでなく、潰えてしまうものもある。
 テネシーワルツのパティ・ページのヒット曲に「I Went to Your Wedding」(君の結婚式に行った)というのがある。愛しい人が他の男と結婚するのを悲しむ歌で、日本では「涙のワルツ」として、ペギー葉山が歌った。その中に 
 
My poor heart kept saying
"My dreams, my dreams are through" というフレーズが出てくる。
 
 教会のオルガンの響く中、通路を進む花嫁の姿に、哀れな私は心の中で「私の夢は終わってしまった」とつぶやき続けた、という意味だ。
 日本語でも「つかみかけた夢が手からスルリと抜けていった」というが、この「スルリ」が、英語のthrough(スルー)と響きあっているところが面白い。
 
「スルリ」ではもう一つ。最近は余り聞かれなくなったが、サッカーに「スルーパス(through pass)」というのがある。中盤から相手守備陣のわずかな隙間を通して相手ゴール前の味方に出すパスだ。ジーコが現役で活躍していた頃、針穴を通すようなそのスルーパスは「芸術的」と表現された。ジーコの引退と共にこの言葉も使用頻度が減ってきたのだろう。
 この場合の「スルー」も、相手守備陣の間を「スルリ」と抜けていく感じとぴったりである。  
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14) square the circle : 与えられた円と同積の正方形を求める
 
「リーダーズ英和辞典」には、circleの項にこの熟語が載っている。squareはこの場合動詞で「正方形にする」という意味である。  
 原義はこの通りであるが、転じて不可能なことを企てる、と言う意味で使われる。
 
 この表現に出会ったとき、なるほど、円と正方形はそういう関係にあったのだと再確認した。つまり、円周率πは無理数であり、3.141592653……とどこまでも続き、決して有限の数列では表せないということ。考えてみればこれは不思議なことだ。直径1メートルの円の周囲の長さも、面積も我々は真の値を知ることが出来ない。逆に面積1平方メートルの円の直径の真の値も知ることが出来ず、従ってコンパスで描くことが出来ない。円がからむすべての値は近似値としてしか知り得ない。なんとなく割り切れないものを感じるが、我々の生活、あるいは現代精密科学もそれで特に困ることはないようだ。日常ではπは3.14で十分である。例えばスペースシャトルの設計や打ち上げの計算にには、小数点以下何桁くらいまで使われるのだろうか。    
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