マーマレードを見ればイギリス人の階級がわかる?


イギリス料理というと何が思い浮かぶだろうか? 前項では「ローストビーフしか産まなかった」と少々失礼なことを書いたが、実はイギリス生まれの食べ物は他にもある。フィッシュ&チップス、イングリッシュ・ブレックファスト・・・残念ながら私の知識ではやっぱりこのくらいで終わるのだが、碩学によると「マーマレードジャムで階級がわかる」という。

イギリスで最も古い大衆紙「デイリー・メイル」紙の記事に、自分がどんな階級に属しているか、誰がどんな階級に属しているか、今ではもはや自覚することすら困難なこの階級意識を、一発で解き明かしてくれる食材としてマーマレードが選ばれているのだ。

階級
イギリス人の朝食の定番、マーマレードを見れば階級が分かる

ロバートソン
ロバートソン社のゴードン・シュレッド
 「朝食のトーストにどのマーマレードを塗っているか見てごらん。色の濃い、厚切りオレンジの果肉が入っているオクスフォードかダンディーのマーマレードなら上流階級、下層階級なら色が薄く果肉感のない、たとえば「(ロバートソン社の)ゴードン・シュレッド」のようなものを選ぶはずさ」(Daily Mail、2014年4月19日)

なぜ、マーマレードなのか?それを知るにはまずその歴史からと説明しなければならない。

日本ではマーマレードは、夏ミカンの皮とかオレンジでつくるが、イギリスのマーマレードはマルメロから作る。マルメロと言うのはカリンとよく似た果実でバラ目バラ科マルメロ属に分類される落葉高木。日本では「西洋カリン」と呼ばれ長野県が主栽培地です。

マルメロ
マルメロ
このマルメロ(marmelo)、イギリスではクインス (quince)と呼ばれます。しかしマルメロはとても硬いため、生では食べる事はできませんが、ペクチンが多いので、砂糖を加えて煮るとジャムやジェリーに、もっと煮詰めるとナイフで薄く切って食べるほど硬いペーストになります。

マルメロとハチミツを一緒に壺に入れ漬けたもの、これはギリシャ名ではメロメリ(リンゴハチミツの意味)となり、ラテン語のメロメリやメリメラになりました。ポルトガル語では、マルメロのジャムを意味する「マルメラーダ(Marmelada)」になり、以来マルメロを煮て砂糖をいれたジャム状のものをすべてマルメラーダと呼び、これがマーマレード(marmalade)の言葉の元になったといわれます。


【 テューダー朝の砂糖菓子 】

イギリス・テューダー朝では、上流階級の人々はデザートの1つとして、果物の砂糖漬けを食べていました。その当時、サトウキビで作られる砂糖はまだ貴重なものでした。スペインやポルトガルでは、マルメロやオレンジで砂糖漬けを作り、イギリスなどへ輸出をしていました。

マルメロ
サケットスプーン
この果物の砂糖漬けを「サケット」といいます。果物を砂糖のシロップの中に入れ、繰り返し加熱して作るもので、ドライタイプやシロップ漬けのものなどがありました。ねばねばしているサケットを食べるため、ふた股のフォークがついた「サケットスプーン(サケットフォーク)」というものも作られています。「sucket」 とは、当時の英語で「シロップ漬けの果物(キャンディーフルーツ)」を意味していました。それを食べるための特別な道具が「sucket spoon」です。このスプーンは一方が小さなスプーン、もう一方が二股のフォークになっており、果物を刺すフォークとシロップをすくうスプーンの両方の機能を備えています。当時の上流階級の食卓で使用されていた貴重な銀製品で、現在ではアンティークとして高い価値があります。

また、マルメロを煮て砂糖を加え、硬めのペーストにして、ローズウォーター(薔薇から抽出された水分をローズウォーターと呼び、油分はローズオイルと呼ぶ)やムスク(ジャコウジカの香嚢(こうのう)から採れる分泌物を乾燥させた動物性の天然香料)などの香りをつけて小さな木箱に入れたものも、イギリスへ運ばれました。それが少しずつ変化して今のマーマレードに近いものになったといわれています。

【 オレンジは憧れの果物 】

今でこそイギリスには、世界中からたくさんの柑橘類が集まっていますが、もともとオレンジは、インド北部や中国の雲南省が原産、そしてアラブ人を通じてヨーロッパに伝わりました。ヨーロッパへは、酸っぱいサワーオレンジが最初に伝わり、その後、当時チャイナオレンジとかポルトガルオレンジと呼ばれていた甘いオレンジが入ってきます。

17世紀の中頃、ロンドンではオレンジが販売されて、庶民も食べていたようですが、地方へは輸送が難しく腐ってしまうので、ロンドン以外では入手が難しかったようです。

冬が寒い北ヨーロッパ、しかし憧れの柑橘類を育てたいという思いから、富裕の上流階級ではステータスシンボルとして、オレンジを栽培する温室「オランジェリー」を作りました。

【 オレンジで作っても、チェリーで作ってもマーマレードと呼んでいた 】

イギリスには、17世紀中頃のオレンジのマーマレードの作り方が載っています。それには、オレンジの皮を3〜4日水に漬けて苦みを抜き、砂糖と一緒に鍋で沸騰させて作る、今のマーマレードの作り方に近いものです。オレンジにリンゴを加えたマーマレードのレシピもあります。

この冊子には、マルメロ(クインス)やアプリコットやチェリーのジャムと思われるレシピもありますが、それには「マルメロマーマレード」や「チェリーマーマレード」と書いてあります。その当時は、現在のようにジャム、マーマレードと区別をせずに、マーマレードという言葉を使っていたのです。

*ジャム、マーマレード、ゼリーはどれも果物を使った保存食ですが、それぞれに特徴があります。以下に違いをわかりやすくまとめました。

ジャム(Jam)
果物の果肉や果汁を砂糖と一緒に煮詰めたもの。とろっとしたテクスチャで、果肉がゴロゴロ入っていることも多い。
例:いちごジャム、ブルーベリージャム

マーマレード(Marmalade)
柑橘類の果物(オレンジ、ゆず、グレープフルーツなど)を使う。果肉だけでなく、皮(ピール)も一緒に煮詰めるのがポイント。独特のほろ苦さがある。
例:オレンジマーマレード、ゆずマーマレード

ゼリー(Jelly)
果汁のみを使い、固めに仕上げる。果肉や皮は入っていない、つるんとした滑らかな食感。ペクチンなどの凝固剤でしっかり固めてある。
例:グレープゼリー、リンゴゼリー(※パンに塗る用のゼリーを指す場合)


 【 スコットランドのダンディーマーマレードが有名な訳 】

マーマレードを語るには必ずといっていいほど登場するダンディー社(DUNDEE社)のマーマレード。
スコットランドの港町ダンディーで1760年代に商店を営んでいたキーラー氏は、嵐を避けて避難していたスペインの船から積み荷のオレンジを安く仕入れました。しかし、そのオレンジは苦くて酸っぱい、生では食べられないセヴィルオレンジ(日本の橙=ダイダイ=に近い)。そこで苦肉の策で、母親(妻の説もあり)のジャネットがこのオレンジに砂糖を加えてマーマレードにして販売したら大人気商品になったという話です。

彼女のマーマレードは、細かくカットされたオレンジの果皮が入ったタイプでした。故にこのオレンジの果皮がが入ったものが「マーマレード」と呼び、入っていないものを「マーマレード・ジャム」と区別しています。

キーラー氏は1797年に「ジェームズ・キーラー」の名前で工場を作り、その後1857年に「ジェームズ・キーラー&サン」と社名を変更します。家族経営から大きな企業へ発展させたこと、これが、ダンディーマーマレードが有名になった理由です。

1870年にイギリスの砂糖税が廃止され、砂糖の価格が下がります。そして19世紀末から20世紀初めにはイギリスのいろいろなメーカーがマーマレードを作り販売します。

1874年オックスフォードでフランク・クーパーの妻サラ・ジェーンが作り販売した「フランク・クーパー」の黒い色のマーマレード。ダンディーマーマレードとは色も対照的ですが、これも人気商品になりました。その他、ロバートソン社のファインカット・ゴールデンシュレッド、ウィルキンソン&サンズのチップトリーのマーマレードなど、今でも私達に馴染みのある会社の名前がでてきます。

そして19世紀の末になると、マーマレードは一般庶民の朝食には欠かせない食べものになりました。

 【 イギリスでマーマレードといえばセヴィルオレンジのマーマレード 】

上で紹介した「デイリー・メイル」紙の記事にあるマーマレードとは、「セヴィルオレンジ」(ビターオレンジとも呼ばれる)を使ったマーマレードである。こちらの由来は1874年にオクスフォードに住んでいたサラ・ジェーン・クーパーなるご婦人が、果肉は苦いが皮の香りがよいセヴィルオレンジを使ってマーマレードを作り、売り出したところ大変評判になり、という物語ができて以来、イギリスでマーマレードといえば「セヴィルオレンジのマーマレード」と相場が決まっているからだ。

【 なぜクマのパディントンはマーマレードの瓶を持っていたのか? 】

「ダークな森」ペルーからやってきたクマのパディントンは、ルーシーおばさんが作って持たせてくれたマーマレードの瓶をトランクに忍ばせて、パディントン駅にたどり着いた。

 2017年に世を去ったマイケル・ボンドが創作したこのトラブルメーカーのクマは、なぜマーマレードを持っていたのだろうか。このクマは、在位70年を迎えた女王陛下とマーマレードサンドウィッチの楽しみを共有できるまでになった(2022年6月、エリザベス女王の即位70周年を祝う祝賀コンサートのオープニング動画でエリザベス女王とくまのパディントンが共演した)。

話の下敷きになっているこの時の動画については説明が必要だろう。
2022年6月に行われたエリザベス女王の即位70周年を祝うプラチナジュビリー。祝賀行事の1つとして行われたコンサートのオープニングで、エリザベス女王とくまのパディントンがお茶をしているコントが放映された。その中で、女王の前でパディントンは紅茶のサーバーに口を入れ直接飲んだり、そのまま一しづくを女王のカップに注ぎ足すはやりたい放題。それを女王が静かに微笑んでいるというシーン。やがて、パディントンが帽子の中からマーマレードのサンドイッチを出し「マーマレードサンドがお好きでしょう」と言いながらて女王に勧めつつ「いつも非常用に1つ持っているんです」と言うと、女王は「私もよ。ここに入っているの」とハンドバッグから大きなサンドイッチを取り出して見せる。 執事が祝賀パーティーが始まることを伝えると、パディントンは「ハッピー・ジュビリー。どうもありがとうございます。色々と」と、女王に伝え、窓の外でイギリスを代表するロックバンドの クイーンが「ウィ・ウィル・ロック・ユー」を演奏し始めると、エリザベス女王とパディントンは、音楽(楽器)に合わせて、ティーカップにスプーンを当てて鳴らし、コントを締めくくった。

動画は右矢印クリックでスタート

それにしてもペルーから来たクマのパディントンはなぜイギリスのマーマレードを持っていたのだろうか?。ChatGPTに聞いてみた。

「めっちゃいい質問です!パディントンは好物がマーマレード・サンドイッチなんです。彼はよく非常時用にマーマレード・サンドイッチを帽子の中に隠していたほど。それくらい彼にとっては大切で安心感のある食べ物なんですね。しかし実は――ペルーにはマーマレードの文化はあまりありません。

だから、なぜペルー出身のクマがイギリス風のマーマレードをそんなに好きなのか、確かにちょっと不思議なんですよね??実際のところは…パディントンは”ペルー出身”って設定ですが、彼の物語や好み(紅茶とかマーマレードとか)は、イギリス文化どっぷりなんです。これは作者のマイケル・ボンドがイギリス人だから。おそらく、物語の中でペルーは<遠いエキゾチックな場所>として選ばれただけで、実際のペルーの食文化とはあまり関係がないんですね。

ペルーではマンゴーやグアバ、パパイヤなどのトロピカルフルーツを使ったジャムはあるんですがマーマレードはない。マーマレード(柑橘の皮入りジャム)は、イギリスやヨーロッパの文化です。なので、パディントンのマーマレード愛は 『ペルー出身だから』ではなく、『イギリスの物語としての設定』ということになります!クマのパディントンがマーマレードの瓶を持っていた理由は、彼がマーマレードが大好きだからです!」

なかなか秀逸な回答であった。

 【 砂糖が安価になるとともにマーマレード文化が爆発的に 】

 では、いったいいつからイギリス人ならばマーマレードを食べる、という仕儀になったのだろうか。これには砂糖の値段が大きく関係している。

 19世紀を通じて「砂糖」の価格が徐々に低下して庶民の手の届く食材となったこと。これがマーマレードを始めとしたジャム類が普及した最大の理由とされる。砂糖が安く手に入るようになったことは、2つの大きな世界史的出来事がもたらした結果だった。

 1つは、もちろん植民地主義である。もとは奴隷によって行われたプランテーションでのサトウキビ栽培が大規模化し、生産量と加工技術が大きく飛躍した。
 2つめは、この植民地からの経済収奪をよりスムースに行うために19世紀を通じて取り組まれた自由貿易政策である。穀物法と航海法を廃止して多くの物品の関税を大幅に引き下げ、もしくは撤廃しながら、他方では長年大英帝国のエンジンとして君臨してきた東インド会社を解体し、植民地貿易の自由競争を促した。こうして砂糖は生産量も上がったり、関税を下げられたから価格も下がったり、庶民の手に届くようになる。

 1860年の英仏通商条約を皮切りに西ヨーロッパでの自由貿易政策が加速すると、スペインから輸入されるオレンジの流通量も格段に多くなった。近郊で採れるベリーよりも、「エキゾチック」なオレンジで作られるマーマレードが好まれるようになった。

 こうして19世紀後半には消費量が増え、マーマレードやジャムを作る工場が多く建設され、各社が競って商品開発を始めていった。かのクーパーさんも、この流れに乗ったわけである。

 【 マーマレードの甘さに潜む大英帝国の“えげつない裏側”とは? 】

砂糖が手軽に手に入ることで安価なフルーツのジャム(主にベリー類やプラム類)と労働者階級の食卓は切っても切り離せないものになった。貧しい労働者家庭がやりくりする中で砂糖を存分に使ったジャムは食卓を華やかにするものとなり、「パンとジャムの取り合わせは3回に2回は必ず食べられるようになった。

 1927年、ビスケットメーカーのマクビティ社が、マーマレードをスポンジ生地に重ねてチョコレートでコーティングした「ジャッファケーキ(JaffaCake)」なるお菓子を売り出した。

 今ではレモンやイチゴ、黒スグリやパイナップル、さくらんぼやパッションフルーツなどのジャムを使ったバリエーションもあるが、やはり「ジャッファケーキ」の基本はオレンジマーマレードである。商品名になっている「ジャッファ(アラビア語ではヤッファ)」とは、テルアビブ南方の港町ヤッファを中心とした地方のことで、その地域産のオレンジの銘柄でもある。

 1927年にイギリスで開発された商品の主要な原材料がパレスチナ産であるということは、砂糖の歴史に勝るとも劣らない、大英帝国のえげつない歴史を表してもいる。

 もともとヤッファでは、パレスチナ人によって小規模でのオレンジ栽培が行われていた。ところが第一次世界大戦後にパレスチナがイギリスの委任統治領(実質的な植民地)になると、離散したユダヤ人はパレスチナへ戻るべきだと考えるシオニズムを信奉するユダヤ人の企業家による投資が盛んになり、オレンジ栽培は産業化された大規模な形態へと移行していった。そこでの労働は多数のパレスチナ人労働者と、新たに入植し次第に数を増してゆくユダヤ人たちが担った。

 大量生産されるビスケットには大量生産されたオレンジマーマレードが必要。とはいえ、分断したまま併存させて統治する、帝国主義のお手本のような舞台装置のもとで作られたオレンジのマーマレードを使った安いお菓子を、宗主国の労働者階級がお茶のお供として重宝がるという風景が出来上がった。

「ジャッファケーキ」は確かに美味しい。しかし1口の「ジャッファケーキ」に染み込んだ歴史を考えるとき、マーマレードとチョコレートの甘さの奥底に潜んだ、かなりの苦々しも味わうべきなのである。

階級
イギリスではどこの食料品店でも御覧のように数多くのマーマレードが並んでいる

イギリス産マーマレードの「ベスト5」


イギリスの伝統的なマーマレードは、朝食の定番でどこの家庭でも広く親しまれています。それだけに、上述のように、どんな銘柄を食べているかでイギリス特有の「階級」まで分かるとされる。そこで、特に人気の高いイギリス産マーマレードの「ベスト5」を紹介しよう。

1. Tiptree(チップトリー) Wilkin & Sons Ltd.

Tiptree
英王室御用達のTiptree
1885年創業の老舗ブランドで、セヴィルオレンジを使用した伝統的な味わいが特徴。?果肉の食感とほどよい甘さが魅力で、イギリス国内外で高い評価を受けている。英国王室御用達の高級ジャムメーカーとして有名なウィルキン&サンズ社。そこの非常に有名な高級なジャムブランドが「Tiptree(チップトリー)」。

Tiptreeはロンドンから北東に100kmほどのところにある人口10000人ほどのエセックス州の村ですが、1885年、そこの住人であるウィルキン氏が始めたジャム事業により、現在ではジャムの名産地として極めて有名な村となっている。約400ヘクタールにおよぶ広大な自家農園でとれた果物を原料とするジャムが評判になり、英国王室御用達となった。

イギリスのスーパーでは必ずと言っていいほどおいているチップトリーのジャム。その種類は豊富でストロベリーやマーマレード、ブルーベリーなどの定番から、レモンカードやジンジャージャム、ライムマーマレードなどの珍しいものも。そのどれもがナチュラルな味で甘すぎることなく、とてもおいしい。

写真のビンにある「Tawny Orange」のトウニーとは「黄褐色」の意味。深い色合いで、芳醇な香りと、ジューシーな厚切りピール(Peelは果物の皮のこと)が入った甘さ控えめのマーマレード。


2. Frank Cooper’s(フランク・クーパーズ)
フランク・クーパーズ
これまた英王室御用達の Frank Cooper’s

フランク・クーパーズ(Frank Cooper’s)は、特にマーマレードで世界的に有名なイギリスの老舗食品ブランドです。
フランク・クーパーはもともとイングランド・オックスフォードで食料雑貨店を営んでおり、彼の妻サラ・ジェーン・クーパーが1874年に自家製のマーマレードを作ったことがきっかけで、販売が始まりました。

創業当初のレシピがベースになっており、砂糖とビターオレンジ(セビルオレンジ)を使用したクラシックなイギリススタイルのマーマレード。オレンジのピール(果皮)の美味しさを伝えるために厚切りにカットしたほろ苦い味わいはたちまち評判となり、噂を聞きつけたエリザベス女王が朝食で食べたところたいそう気に入り英国王室御用達となった。

創業の地名をとった「Frank Cooper's Oxford Marmalade(フランク・クーパーズ・オックスフォード・マーマレード)」という名称が有名になり、今でもその名前で親しまれています。甘さと苦味のバランスが良く、しっかりとしたコクがあり、いわゆる「ビター・マーマレード」の代表格。

クラシックでありながらも、品質の高さで知られており、イギリス王室などの上流階級にも長年愛されてきたブランドでウィンストン・チャーチルもこのブランドの愛好家だった。

イアン・フレミングの小説『007は二度死ぬ(You Only Live Twice, 1964)』に登場します。ジェームズ・ボンドが日本での任務に赴く前に、ロンドンのクラブやホテルなどでの食事シーンが描かれます。その中で、朝食の場面があり、ボンドはイングリッシュ・ブレックファストの一部として「Frank Cooper’s Vintage Oxford Marmalade」を楽しんでいる、という描写が出てきます。

ボンドの食へのこだわりや、英国紳士としての洗練された嗜好を表現しているのですが、作者のイアン・フレミング自身もまた、グルメで知られ、細かな食事の描写に定評がありました。上記のボンドの食事シーンに出てくる品々は、だから彼自身の好みをかなり反映していると言われています。


Mackays
Mackays(マッカイズ)

3. Mackays(マッカイズ)
スコッチとマーマレード発祥の地、スコットランドで昔ながらの製法を守り続ける唯一のブランド。シングルモルトウイスキーの「マッカラン10年」を入れてつくられた「オレンジマーマレード・ウィズ・ウイスキー」など、ユニークなフレーバーが人気のマーマレード。

ウイスキーと同じ伝統的な銅底のオープンパンを使用し、かき混ぜながらゆっくりと煮る製法(釜炊き)で作られたママレードは、まさにホームメイドの味。マッカラン10年を飲みながらマッカランジャムをのせたフィンガーフードをつまみにするのが通のオススメ。
その他にも、ヨーグルトやチーズケーキに添えたり、 紅茶や、ホットウイスキーに入れる食べ方も。全体的に甘さ控えめで、果実の風味がしっかりと感じられる一品。

4. Fortnum & Mason(フォートナム&メイソン)

フランク・クーパーズ
フォートナム&メイソン
フォートナム&メイソン (Fortnum & Mason) はイギリスのロンドン・ピカデリーを拠点とする老舗百貨店です。1707年ウィリアム・フォートナム(William Fortnum)とヒュー・メイソン(Hugh Mason)により創業しましたが、フォートナムは当時、アン女王の宮廷に勤めており、ロウソクの使い残しを再利用して利益を得たことが店の資金源の一つだったとか。

18世紀〜19世紀にギリス帝国の拡大と共に紅茶、香辛料、ジャムなどを世界中から取り寄せ、富裕層を中心に人気を博します。1840年以降はビクトリア女王時代、アフタヌーンティー文化の普及と共に、フォートナム&メイソンのティータイム商品がイギリス人に定着していきます。

1920年代、常連客だった劇場支配人・ナイジェル・プレイフェア卿(Sir Nigel Playfair)が店にやってきて「トーストに合う、もっとビターで深みのある味のマーマレードが欲しい」とリクエストしました。これに応える形で、フォートナムの開発チームが試行錯誤を重ね、オレンジの皮を厚めにスライスしたものを作り上げました。それが、甘さを抑えた、現在もなおこの店を代表する「ヴィンテージ・オレンジマーマレード」です。

“ヴィンテージ”という名称は、ワインの「特別な年の収穫」になぞらえ、特別なレシピと丁寧な手作業で作られる逸品であることを示しています。ワインの世界のように“年月を重ねた良いもの”という意味合いが込められています。20世紀初頭のオリジナルレシピを再現・維持し続けているため、“ヴィンテージ”の名にふさわしいマーマレードなのです。

ヴィクトリア女王時代から、エリザベス女王そして現在に至るまで英国王室の御用達として長く信頼されてきたマーマレードです。


5. Dalemain(ダルメイン)

ダルメイン
ダルメイン
イギリスの湖水地方にあるダルメインのヘーゼル家は、イギリスの湖水地方にある大邸宅を17世紀から代々所有している貴族。「イギリスで一番美しい庭」と言われ、NHKの番組で紹介されたこともある。

ダルメイン邸には17世紀から継承されたレシピが残っていて、その中に当時の司教のために作ったマーマレードのレシピがあった。その通りに作られたマーマレードが有名。

マーマレードの語源とされているマルメロ(Quince・西洋カリン)を使ったマーマレードで、ジャムのような甘さがあるのでマーマレード独特の苦みが苦手な人にも受け入れられる。ヨーグルトや焼き立てのクロワッサン、チーズやハムなど塩気のあるものとご一緒に食べるとよいそうだ。

現在の当主は、イギリス伝統のマーマレード作りを見直してほしい、と毎年コンテストを開催していて、優勝者に「マーマレード・アワード」というを賞を出している。今では、世界各国から3000本を超える応募が届くビッグイベントになった。